ED(勃起不全)というと最近の疾患のように思えますが、実ははるか昔から男性たちはEDに悩んでいました。勃起不全を改善しようと時代ごとに様々な方法が考えだされ、歴史を振り返るといかに勃起不全が男性にとって重大な疾患であるかがよくわかります。中には、そんなことしてたの?と思うような、びっくりするものもあります。
本記事では、勃起不全の歴史を振り返りつつ、どのように治療方法が変化していったのかをご紹介します。
ED(勃起不全)というと最近の疾患のように思えますが、実ははるか昔から男性たちはEDに悩んでいました。勃起不全を改善しようと時代ごとに様々な方法が考えだされ、歴史を振り返るといかに勃起不全が男性にとって重大な疾患であるかがよくわかります。中には、そんなことしてたの?と思うような、びっくりするものもあります。
本記事では、勃起不全の歴史を振り返りつつ、どのように治療方法が変化していったのかをご紹介します。
勃起不全は旧約聖書、古代エジプトの古代エジプトのパピルス、古代ギリシャ神話にも登場しています。そして、それぞれの時代や地域で、異なる治療法が行われていました。
古代エジプトでは、勃起不全は悪魔の呪いとも考えられていました。
当時の人々は、紀元前1550年頃に書かれたエジプト医学書パピルスに記載されている方法に基づいて、勃起不全を改善するために、仔ワニの心臓を樹液と混ぜて陰茎に塗り込んでいたと伝えられています。
その他、キャロブ、ヨウシュネズ、塩、油、スイカなど、37の材料を混ぜて服用していたようです。
紀元前8世紀に古代インドの医師によって書かれたインドの二大古典医学書の一つ、スシュルタに勃起不全の記載があります。
当時のインドでは、勃起不全は先天性の疾患、骨盤疾患、性器の疾患とされていました。また、勃起不全の原因が女性にあるとも考えられていました。
スシュルタでは様々な治療法が紹介されています。その1つが、ヤギの精巣を食べるというものです。この際、ミルクやゴマ、塩を混ぜるなど、様々な方法で食べられていました。
また、80歳以上の男性には、乾燥したアマラカの粉を、蜂蜜、バター、砂糖、ミルクと混ぜて飲ませていたとされています。
8世紀の古代ローマとギリシャの男性は、媚薬になると信じられていた雄鶏や山羊の生殖器をお守りとして身に着けることで、性機能を促進していたと伝えられています。また、勃起不全を改善するためにオオカミの陰茎を摂取することが推奨されていたとされています。
加えて、ローマでは、ウサギなど生殖活動が盛んな動物の生殖器を食べたり、タカやワシの精液を飲むということがされていました。
古代から多くのEDの治療法が試されましたが、それでも勃起不全で悩む男性は絶えず、中世になると勃起不全は魔女の仕業であるとされていました。魔女狩りについて記載された本、“The Malleus Maleficarum”には、勃起不全を改善するには魔女を説得するしかない、という記載があります。
しかし、実際には、医師の力量の低さを隠すためにこのように勃起不全を魔女の仕業としたという説もあります。
13世紀以降、17世紀ころまで勃起不全は犯罪とみなされるようになり、唯一女性からの離婚の申し立てが認められる理由だったそうです。
時に男性に公の場で射精することで、勃起不全かどうかを証明させることもありました。
日本でも江戸時代には、EDで男性が悩まされていました。江戸時代、EDは「腎虚」と呼ばれており、中年男性にとっては重要な疾患と認識されていました。
そんな中、当時の人が精力剤として食べていたものが海狗腎です。海狗腎とはオットセイの陰茎および睾丸を乾燥させたものです。
16世紀に李時珍が記した医学書「本草網目」に、海狗腎には精力剤や滋養強壮剤としての働きがあると記載されていたことから、日本でも食べられるようになりました。
身体の一部が弱っているのであれば、それと同じ部分を食べるのがいいという考えがあったため、一夫多妻制であるオットセイの陰茎などが食べられていたのです。
徳川家康はこの海狗腎を特に好んで食べていたとされています。その他、下半身の衰えに効果のある八味地黄丸も当時はEDを治療するために食べられていたようです。
1800年代後半になると、医学に基づいた本格的な勃起不全の治療が行われるようになりました。まず、羊の睾丸のエキスがテストステロンの分泌を促すとして、男性に注射されるようになりました。
この治療法は1940年代まで続きましたが、テストステロンを増加させるだけでは勃起不全の治療法としては不十分でした。
1936年、世界で初めて陰茎インプラントが開発されました。これは人間や動物の骨、軟骨細胞を使用したものですが、効果を持続することができず、失敗に終わります。
1970年代に入ると、YED(youth equivalence device)という器具が開発されました。これがまさに現在でも使用されている陰茎ポンプの原点です。この陰茎ポンプは1982年FDAの承認を取得し、商品化されました。
この治療法は90%以上の効果があり、当時の男性の生活を変える大きなきっかけとなりました。
その後、1983年にイギリスの生理学者によって、アルファ遮断薬であるパパベリンが勃起を促すことができると証明されました。パパベリンに勃起促進作用があることは、手術前の患者に対して血圧を下げるために使用している際に偶然見つかり、その後ED治療として活用されるようになります。
しかし、陰茎に直接パパベリンを注射することに抵抗がある男性が多く、当時はあまり浸透しませんでした。ただ、この発見はその後のED治療薬の発展に大きく貢献したようです。
1990年代前半になると、狭心症の治療薬であったシルデナフィルに勃起不全を改善する働きがあることが発見されます。1998年には、ファイザー社によって、商品名、バイアグラとして販売が開始されました。そして、翌年には日本でもバイアグラの販売が開始されるようになります。
バイアグラは「青い錠剤」を服用するだけで勃起を改善することができるとして、瞬く間に世界中で人気を集めました。そして、現在でも最も信頼できる勃起不全の治療法として多くの男性たちに愛用されています。
バイアグラの販売が開始された数年後の2004年にはレビトラ、2007年にはシアリスが日本国内で販売されました。これらはバイアグラの欠点を補う治療薬として注目を集め、シアリスの売り上げはバイアグラを超えるようになります。
バイアグラ、シアリス、レビトラなどの正規品が世界中で人気になると、多くのジェネリック医薬品が誕生しました。代表的なものには、カマグラゴールド、タダリス、タダシップ、センフォースなどが挙げられます。これらは正規品よりも安く購入することができることから、人気が出ています。
そして現在でも、世界各国で新しいジェネリック医薬品が生み出され続けています。
現代の薬物療法の詳細については「ED(勃起不全)の治療法とは」の記事をご参照ください。
現在ではED治療薬の他にも、多数の治療法があります。例えば、陰茎海綿体に直接血管拡張薬を注射する陰茎海綿体自己注射、陰茎海綿体内にシリコン棒を挿入する陰茎プロステーシス手術などが挙げられます。これらはED治療薬が効果が得られなかった場合の治療法として選択されています。
本記事で紹介した通り、男性は古代から勃起不全に悩んでいたのです。動物の睾丸を食べていたなど、今では想像できないような治療法が当時は信じられていたのです。現在はありがたいことに、バイアグラやシアリスなどの治療薬が多くあります。
そして、現在でも新しい治療法が生み出され続けています。もしかしたら、勃起不全で悩む男性がいなくなる時代もそう遠くはないかもしれません。