トレチノインとは

トレチノインは、オールトランス・レチノイン酸と呼ばれるビタミンA誘導体で、レチノイドの中でも「レチノイン酸」に分類される成分です。

外用では、にきび(尋常性ざ瘡)、光老化(紫外線による小じわ・色むら・ごわつき)の治療に長年使われており、米国FDAでは1971年ににきび、1995年に光老化に対して承認されています。

一方、内服のトレチノイン(レチノイン酸カプセル)は、急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬として用いられる抗がん剤で、外用の美容・皮膚治療とはまったく目的・用量が異なります。

本記事では主に「外用トレチノイン(塗り薬としてのトレチノイン)」を中心に解説します。

トレチノインの種類(外用と内服)

外用トレチノイン

トレチノイン外用薬は、クリーム / ゲル / ローションなどの剤形で、一般に0.01〜0.1%程度の濃度で使用されます。にきび治療や光老化治療に対して、40年以上にわたり豊富なエビデンスが蓄積されています。
日本では、トレチノイン外用薬は厚生労働省承認の市販薬・保険適用薬としては認可されていませんが、大学病院や美容皮膚科など一部医療機関では、院内調剤のゲル(例:0.1〜0.4%)として自費診療で使用されているケースがあります。

内服トレチノイン(レチノイン酸)

内服のトレチノイン(商品名:VESANOIDなど)は、ビタミンA誘導体の抗がん剤として急性前骨髄球性白血病(APL)に用いられます。
日本でも希少疾患用医薬品として承認されていますが、強い催奇形性(胎児への重い影響)のため妊娠可能年齢の女性では厳格な妊娠予防プログラムが求められます。

トレチノインの作用機序

トレチノインは、皮膚の核内にあるレチノイン酸受容体(RARα・RARβ・RARγ)に結合し、さまざまな遺伝子の発現を変化させることで効果を発揮します。

角質剥離作用(ケラトリティック作用)
角層の細胞同士の結合を弱め、古い角質を剥がしやすくする。
→ 毛穴詰まり(コメド)を解消し、にきびを改善。

表皮細胞の増殖・分化の正常化
表皮のターンオーバーを促進し、肌のざらつき・ごわつきを改善。

真皮コラーゲンの増加・分解抑制
コラーゲン産生を促進し、コラーゲン分解酵素(MMP)の発現を抑えることで、光老化によるしわ・たるみを改善。

メラニン代謝の改善
メラノサイトの活性やチロシナーゼの発現を調整し、表皮のメラニン排出を促進。
→ シミ、肝斑、炎症後色素沈着の改善に役立つ。

抗炎症作用
炎症性サイトカインを抑え、にきびなどの炎症を軽減。


この「角質・表皮・真皮・炎症・色素」への多面的な作用が、トレチノインが多くの皮膚疾患と美容目的で使われる理由です。

トレチノインの主な効果・適応

にきび(尋常性ざ瘡)

トレチノイン外用薬は、にきび治療の基本薬の一つとされています。
白ニキビ・黒ニキビを減らす、炎症性の赤ニキビの改善をサポート、新しいニキビの予防などの効果が報告されています。

光老化(小じわ・色むら・ごわつき)

細かいしわ、もっとらった色素沈着、皮膚のごわつき・ざらつき、くすみ等、日光による光老化の改善に有効であることが示されています。

シミ・肝斑・炎症後色素沈着(PIH)

トレチノインはメラニンの排出を促進するため、肝斑、炎症後色素沈着(ニキビ跡・摩擦黒ずみなど)、一部のシミに対して、ハイドロキノンなどと併用する治療法が多くの論文・臨床で用いられています。
ただし、長期・高濃度の使用や強い炎症を繰り返すと、逆に色素沈着が悪化する例もあり、濃度や塗布量のコントロールが重要です。

皮膚のハリ・キメ・毛穴

コラーゲン産生促進・表皮ターンオーバー亢進・皮脂抑制などにより、毛穴の目立ち、軽度のたるみ・ハリ低下、肌のキメの乱れの改善にも期待できます。

トレチノインの一般的な外用方法のイメージ

※以下は海外のガイドラインや臨床研究からみた「一般的なパターン」の説明です。具体的な使用方法は医師の指示に従ってください。

① 通常、夜1回、洗顔後の完全に乾いた肌に、顔全体なら「米粒〜えんどう豆1粒程度」の少量を薄くなじませます。

② 濃度は0.01〜0.025%程度の低濃度から開始し、肌の反応をみながら濃度や頻度を徐々に調整するのが一般的です。

③ 使用開始直後は、「2〜3日に1回。問題なければ毎晩」といった「漸増」スケジュールが推奨されることが多いです。
日中は必ずSPF30以上の日焼け止めを使用し、保湿クリームなどで肌を守ってください。

トレチノインの副作用

よくみられる局所副作用(レチノイド反応)

トレチノイン外用の代表的な副作用は、いわゆる「レチノイド皮膚炎(レチノイド反応)」と呼ばれるものです。
症状として、
・赤み(紅斑)
・ひりつき
・灼熱感
・皮むけ
・乾燥
・かさつき
・軽い腫れ
・ピリピリ感
・一時的なニキビの悪化
などが数週間〜数か月ほど続くことがあります。
日本人の皮膚では、高濃度(0.1%)トレチノインで想定以上の強い刺激が出やすいと報告されており、欧米での用法をそのまま当てはめると刺激が強すぎる場合があります。

まれな副作用・全身への影響

・接触皮膚炎(アレルギー反応)
・予想外の色素沈着
・色素脱失
・光線過敏(赤くなりやすくなる)
・眼や粘膜への刺激(誤って塗布した場合)

外用トレチノインの全身吸収量は少なく、これまでの研究では妊娠への明確なリスク増加は証明されていないとする報告もありますが、データが十分でないため、多くのガイドラインでは妊娠中の使用は基本的に推奨されないとされています。

トレチノイン使用時の注意点

使用を避ける/慎重にすべきケース

  • 妊娠中、妊娠を計画している、妊娠の可能性がある方
  • 授乳中の方(多くの専門家が慎重使用または回避を推奨)
  • 強い湿疹・皮膚炎・ロザケア(酒さ)など、もともと炎症の強い皮膚
  • 重度の日光過敏症
  • トレチノイン、レチノイド類への過敏症歴がある場合

併用に注意が必要なもの

  • 高濃度のAHA/BHA(フルーツ酸・サリチル酸)配合ピーリング
  • 強いスクラブ・ゴマージュ
  • 高濃度のビタミンCやアルコールの多い化粧水
これらは、肌刺激が強くなりやすいため、医師と相談のうえで慎重に使う必要があります。

日焼け対策は必須

トレチノイン治療中は、紫外線で炎症・色素沈着が悪化しやすく、光老化改善の効果を十分に引き出すためにもUVケアが必須とされています。日中は広い波長をカバーする日焼け止め+帽子・日傘などを併用することが推奨されています。

トレチノインと他のレチノイドの比較

成分名分類入手法効き目の強さ目安主な用途刺激の強さ
トレチノインレチノイン酸
(第1世代レチノイド)
多くの国で医師処方のみ。
日本では外用は未承認で自費診療中心。
レチノイドの中でも、標準〜強めにきび、光老化、色素沈着刺激は比較的強い。
導入時に赤み・皮むけが出やすい。
レチノールビタミンAアルコール化粧品として市販(OTC)トレチノインの数分の1〜数十倍弱いとされるエイジングケア化粧品全般比較的マイルド。
高濃度では刺激あり。
レチナールビタミンAアルデヒド一部の化粧品に配合レチノールよりやや強く、トレチノインより弱いエイジングケア、にきび治療補助中等度の刺激
アダパレン第3世代合成レチノイド多くの国で0.1%ゲルがOTC。
日本ではにきび治療薬として医師処方。
0.3%ゲルで0.05%トレチノインに近い効果にきび、軽度の光老化トレチノインよりややマイルド。
タザロテン第3世代合成レチノイド主に海外で処方薬光老化やしわに対し、トレチノインより強力と言われる乾癬、にきび、光老化刺激は強い
※上記は文献やレビューをもとにした「傾向」であり、個々の製品の処方設計・濃度・肌質によって体感は大きく変わります。

トレチノインのジェネリック医薬品

ビハクエン トレチノイン
製造元:
CAボタナインターナショナル(CA BOTANA International Inc.)
有効成分:トレチノイン
含有量:1本あたり0.025%、0.05%、0.1%
商品ページはこちら
エーレットジェル
エーレットジェル(A Ret Gel)
製造元:
メナリーニ(Menarini)
有効成分:トレチノイン
含有量:1本あたり0.025%、0.05%、0.1%
商品ページはこちら
トレチヒール
トレチヒール - トレチノイン(Tretiheal - Tretinoin)
製造元:
ヒーリングファーマ(Healing Pharma)
有効成分:トレチノイン
含有量:1本あたり0.025%、0.05%
商品ページはこちら

トレチノインを含む医薬品の購入方法

外用トレチノイン(にきび・美肌目的)は、現時点で厚生労働省承認の保険適用薬にはなっておらず、一般薬局で購入することはできません。ただし、ビハクエン トレチノインなどは個人輸入で海外からの購入が可能です。
参照:
トレチノイン:wikipedia
トレチノイン:pubmed
アダパレン:kegg

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