様々な理由によりワクチン接種ができない人や、コロナに感染してしまった人にとって、重症化を防ぐために安全かつ低価格で利用できる治療薬が必要とされています。
そこで注目されているのが、古くから用いられている2型糖尿病治療薬メトホルミンです。米国で行われた臨床試験に加え、2026年に発表された8万人規模の最新研究でも、メトホルミン使用者ではコロナによる入院・重症化のリスクが低いという関連が報告されています。

メトホルミンと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化との関係については、これまで複数の研究が行われています。
米国ミネソタ大学医学部のブラマンテ氏らが行った「COVID-OUT試験」では、過体重または肥満の成人を対象に、メトホルミンなどの既存薬がCOVID-19の重症化を防げるかが検討されました。
2022年に発表された結果では、低酸素血症、救急診療部の受診、入院、死亡を合わせた主要評価項目について、メトホルミンとプラセボの間に統計的に明らかな差は確認されませんでした。一方、あらかじめ設定されていた副次解析では、メトホルミンを服用したグループで救急診療部の受診、入院または死亡が少ないという結果が報告されています。こうした結果には、メトホルミンの抗炎症作用や抗ウイルス作用、急性期の高血糖予防が関係していると考えられています。
また、2022年11月に発表された研究では、米国でコロナ感染が診断された2型糖尿病患者6,626例を対象に、メトホルミン、SU(スルホニル尿素)薬、DPP-4阻害薬が比較されました。その結果、SU薬投与群に比べてメトホルミン投与群では人工呼吸器装着および死亡のリスクが有意に低かった一方、DPP-4阻害薬との間には有意差がありませんでした。
2026年9月には、科学誌『Scientific Reports』に、メトホルミンとCOVID-19の重症化との関係を調べた新たな大規模研究が発表されました。
この研究では、実際の医療データをもとに81,348人を解析しました。このうち29,568人がPCR検査で陽性となり、2,753人が入院しています。メトホルミンを以前から使用していた人と、糖尿病治療薬を使用していなかった人を比較したところ、メトホルミン使用者では、
という関連が認められました。
一方、感染のしやすさについては、メトホルミン使用者と非使用者の間に明らかな差は確認されていません(調整オッズ比0.97)。この研究が示しているのは、メトホルミンを服用していると感染しにくくなるということではなく、感染した場合の入院・重症化との関係です。
なお、この研究はランダム化比較試験ではなく、実際の医療データを分析した観察研究です。糖尿病の重症度や肥満、腎機能、ほかの薬の使用状況などの影響を完全には取り除けないため、メトホルミンそのものが重症化を防いだと因果関係を断定することはできません。
コロナ感染後の後遺症については、いまだ不明な点が多いですが、日本でも一部の人に長引く症状(罹患後症状)があることがわかっています。起き上がるのもつらい倦怠感や嗅覚の異常、原因はわからず治療薬も見つかっていないため社会問題となっています。
慶応大学の研究班によると、新型コロナ感染者のうち、何らかの後遺症が残ったのが1年後も3割にのぼったと発表されています。症状が長期化すると、不安や抑うつの傾向も強くなり、睡眠障害などに苦しむ人が増えていると言います。
WHO(世界保健機関)の定義では、コロナの後遺症とは、コロナ感染後に不調の症状があり、他の疾患による症状として説明がつかないもので、少なくとも2か月以上持続し、発症から3か月経った時点にもみられるとされています。
前述のCOVID-OUT試験では、参加者のうち1,100人以上を約10か月間追跡し、毎月のアンケートで医療機関からコロナ後遺症の診断を受けたかを尋ねる形で、メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンの影響も調べられました。
2023年に医学誌『The Lancet Infectious Diseases』に発表された結果では、医療機関でコロナ後遺症と診断された割合は、メトホルミンを使用したグループで6.3%、プラセボ群で10.4%でした。メトホルミン群では、後遺症と診断されるリスクがプラセボ群より約41%低いという結果です。
ただし、この試験の対象者は30~85歳の過体重または肥満の成人であり、すべての人に同じ結果が当てはまるとは限りません。また、1つの試験の結果であり、後遺症を防ぐ効果が確定したわけではありません。
メトホルミンは、新型コロナウイルスの複製に重要とされるmTOR(細胞の増殖や代謝を調節する酵素)を阻害する働きや、抗炎症・抗血栓作用があり、COVID-19の重症化や後遺症との関係が研究されてきました。
2026年に発表された8万人以上を対象とする研究では、以前からメトホルミンを使用していた人でCOVID-19による入院や感染後の重症化のリスクが低いという関連が報告され、COVID-OUT試験ではメトホルミンの早期使用とコロナ後遺症の診断リスク低下との関連も示されています。一方で、感染そのものを防ぐ関連は確認されていません。
ただし、これらの研究は種類も対象者も異なり、メトホルミンがCOVID-19の重症化や後遺症を防ぐ効果が確立されているわけではありません。メトホルミンは日本では2型糖尿病の治療薬として承認されている薬で、新型コロナの予防や治療を目的とした使用は承認されていません。服用は必ず医師の判断のもとで行ってください。今後のさらなる研究が期待されています。
この記事は以下の情報を参照しています:
Metformin use and decreased risk of severe COVID-19 outcomes in a real-world case-control study
Randomized Trial of Metformin, Ivermectin, and Fluvoxamine for Covid-19
Outpatient treatment of COVID-19 and incidence of post-COVID-19 condition over 10 months (COVID-OUT)