コロナ後遺症で苦しむ人が増えているのは、日本だけでなく世界で問題視されています。コロナ後遺症は頭痛や眠気、めまい、喉の痛みなど重い場合は日常生活が困難になる場合も。
気のせいでも怠けているのでもないのに続くつらいコロナ後遺症について、原因や治療法、コロナ後遺症に効く治療薬について最新情報をまとめました。コロナ後遺症外来の治療費、コロナ後遺症で使える支援制度の例についても紹介しています。
コロナ後遺症は、感染してから療養期間が終わっても症状が慢性化して続いたり、感染後に回復してから症状が現れるものなどがわかっています。
コロナ後遺症の症状一覧 |
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疲労感、倦怠感(だるさ)、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰(かくたん) 、息切れ、胸痛、脱毛(抜け毛)、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下など |
参照元:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状」
海外でも、コロナ後遺症の記憶障害や頭痛が「ブレインフォグ(頭の中に霧がかかったような状態)」として問題になっており、コロナ後遺症患者の40%近くがその症状に苦しんでいることが報告されています。
保健指導リソースガイドによると、コロナ後遺症の広島県の調査例では、回答した人々のうち34%が「コロナ後遺症がある」と答えています。中でも倦怠感や息切れ・息苦しさは、多くの人がつらい症状としてあげています。
厚生労働省による情報でも、感染して入院した人の3割以上なんらかの症状が残っていることがわかっており、新規感染者は減少していますが、コロナ後遺症の相談増加していることが分かっています。*1
こちらの映像では、一年半以上もコロナ後遺症として倦怠感や腹痛など様々な症状が続いている男性の例が挙げられています。休業補償を受けているが復職できるのかわからず、不安な様子が語られています。
コロナ後遺症は大きな問題になっていますが、様々な薬の処方を受けてもなかなか改善しない人もいるなど、人によって回復状況が異なり、難しい課題であることが伺えます。
コロナ後遺症の原因は様々な可能性が考えられており、不明なところも多いのが現状です。研究では、免疫細胞「T細胞」が少ないと、症状が長期化するのではと考えられています。ウイルスが体に侵入してもウイルスのかけらが排除できず残っていることで炎症が起こると見られています。
京都大学の研究によると、女性の場合は「T細胞」が過剰に作られることで免疫の暴走が起こり、男性の場合は逆に「T細胞」があまり作られないことで回復が遅いと言うことが報告されています(参照:コロナ後遺症に“男女差” 男性が回復遅い理由とは)。
日本を含め世界各国でコロナ後遺症の研究はすすめられています。
●グアンファシン(Guanfacine)とN-アセチルシステイン(NAC)
米国の臨床神経科学者による研究では、コロナ後遺症でブレインフォグの症状がある12人の患者に対し、グアンファシン(Guanfacine)とN-アセチルシステイン(NAC)の投与をして、8人の患者に改善が見られて、一部の人は通常の活動ができるようになったと報告されました。*2
グアンファシン(Guanfacine)は、ADHD(注意欠陥/多動性障害)の治療薬として開発され、前頭前野の機能障害に関連する他の疾患の治療にも用いられる薬です。*3
N-アセチルシステイン(NAC)は、強力な抗酸化作用を持ち、高濃度酸素性肺傷害に対する抑制効果が期待される成分です。通常は解毒薬として処方されている医薬品です。*4*5
●パキロビッド(Paxlovid)
他にも、抗ウイルス薬パキロビッド(Paxlovid)がコロナ後遺症のリスクを減らすことが研究で報告されています。
パキロビッド(Paxlovid)は、抗ウイルス薬のニルマトレルビル(Nirmatrelvir)と、抗HIV薬であるリトナビル(Ritonavir)を組み合わせた薬です。パキロビッドを投与された患者は、投与されていない人よりも後遺症の発症率が少なかったことが示されました。*6*7
●ドネペジル(Donepezil)
脳内の神経伝達物質脳内アセチルコリン量を増加させる働きがある認知症の治療薬です。脳内コリン作動性神経系の機能低下を改善するドネペジル(Donepezil)は、コロナ後遺症の倦怠感やうつの症状に対しての改善が期待され、日本で治験が開始されました。*8
●低用量ナルトレキソン(LDN)
ナルトレキソン(Naltrexone)はアルコール依存症や麻薬中毒の治療薬として知られる薬ですが、低用量(1日1.75〜4.5mg)を服用することで免疫系の調整が行われて様々な疾患の進行を止める作用があると考えられています。アイルランドで行われた試験では、コロナ後遺症の一部の症状に対して改善が示されました。*9
まだこれらのコロナ後遺症の治療に効果が期待されている薬は研究が進められている段階です。さらなる大規模な試験が計画されています。
コロナ後遺症は完全予約制のところが多いため「コロナ後遺症外来」をお住まいの地域で探し、事前に予約して受診する必要があります。
新型コロナ感染の治療は全額公費負担となっていますが、コロナ後遺症の治療は自己負担になるのが実情です。
コロナ後遺症で働けなくなった場合、支援金を受けられる制度がありますので、ご自身が当てはまる要件を確認してください。
●労災保険
職場で新型コロナに感染した場合で、後遺症により療養が必要とされる場合には労災保険の対象となっています。(問い合わせ先:労働基準監督署)
●健康保険
健康保険に加入していて、コロナ後遺症で仕事ができない場合、要件を満たせば傷病手当金の給付を受けられます。(問い合わせ先:ご加入の健康保険組合)
●障害年金
コロナ後遺症により、日常生活に支障が出る場合、一定の要件を満たすと障害年金の受け取り対象となります。(問い合わせ先:日本年金機構)
●生活困窮者自立支援制度
コロナ後遺症で仕事に復帰できなくなり生活に困っているなどがある方は、住まいや就労の支援などが受けられます。(問い合わせ先:自立相談支援機関)
参考リンク
*2 Potential New Treatment for “Brain Fog” in Long COVID Patients
*5 N-アセチルシステインの高濃度酸素性肺傷害に対する抑制効果の検討