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トルセミドとは

トルセミドは、ループ利尿薬に分類される利尿薬です。日本では一般名を「トラセミド」といい、同じ成分を指しています。海外では torsemide(トルセミド)の表記が一般的で、このページでは国内の記載に合わせて「トラセミド」を中心に用います。

日本での代表製剤はルプラック錠4mg/8mgで、承認されている効能・効果は心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫の3つです。心不全・腎疾患・肝疾患などで体内に過剰にたまったナトリウムと水分を尿として排泄し、むくみや体液のうっ滞を改善する目的で使われます。

このページでは、トラセミドの働き方、使い方の目安、副作用、そして電解質や腎機能に関する注意点を、公的な情報源をもとに整理して紹介します。

トルセミドの作用機序

腎臓は、血液をろ過したあとで必要な水分と電解質を再び取り込み(再吸収)、残りを尿として排泄しています。この再吸収のうち、ナトリウムの多くを担っているのが「ヘンレ係蹄(けいてい)上行脚」と呼ばれる部分です。

トルセミドはこのヘンレ係蹄上行脚に作用します。日本の電子添文では、他のループ利尿薬と同様に「ヘンレ係蹄の上行脚における電解質の再吸収抑制による利尿作用」と説明されています。米国の製品情報では、より具体的に、太いヘンレ上行脚の管腔側にあるNa⁺/K⁺/2Cl⁻共輸送体を阻害することが示されています。

ナトリウムと塩化物が再吸収されずに尿へ向かうと、それに引かれて水も排泄されます。結果として尿量が増え、体にたまっていた余分な水分が減り、むくみが改善します。

作用の流れ

トルセミドを服用する
▼
腎臓のヘンレ係蹄上行脚に到達する
▼
ナトリウム・塩化物の再吸収が抑えられる
▼
ナトリウムと一緒に水も尿中へ排泄される
▼
体にたまっていた余分な水分が減る
▼
むくみ(浮腫)が改善する

抗アルドステロン作用について

トルセミドについては、日本の電子添文の薬効薬理に、ラットの腎細胞質画分で受容体結合の阻害による抗アルドステロン作用が認められた、という非臨床データが記載されています。

ただしこれは、トルセミドをスピロノラクトンのような抗アルドステロン薬と同じように考えてよい、という意味ではありません。臨床上の主作用はあくまでループ利尿作用であり、実際にトラセミドでも低カリウム血症は起こります。電子添文でも低カリウム血症は重大な副作用として記載されています。

トルセミドの使い方

以下は日本の電子添文に基づく一般的な情報です。実際の用量は、むくみの程度、体重、血圧、腎機能、電解質、併用している薬などに応じて医師が調節します。

国内で承認されている用法・用量

通常、成人にはトラセミドとして1日1回4〜8mgを経口投与します。年齢・症状に応じて適宜増減されます。

電子添文では、利尿効果が急激に現れることがあるため、電解質失調や脱水に注意し、少量から開始して徐々に増量することとされています。とくに高齢者では1日4mgから開始し、慎重に観察することが推奨されています。

基本的には午前中に飲む

利尿作用によって尿量が増えるため、夜間の休息が必要な患者では、夜間頻尿を避けるために午前中に投与することが望ましいとされています。

つまり「寝る前に飲む利尿薬」という使い方は通常しません。飲む時間帯も治療の一部だと考えてください。

効果が出るまでの時間

日本の薬物動態試験では、健康成人で服用後およそ1時間で血中濃度が最高となり、消失半減期は約2時間でした。食事によって最高血中濃度に達するまでの時間は遅れますが、その他の薬物動態への影響は小さいとされています。

米国の製品情報では、経口投与後おおむね1時間以内に利尿が始まり、最初の1〜2時間で最大となり、約6〜8時間持続するとされています。朝に飲めば日中のうちに作用が終わる、という時間設計です。

国内臨床試験での成績

電子添文には、国内で実施された臨床試験の結果が掲載されています。浮腫のある患者115例に8mgを1日1回6日間投与した二重盲検試験では、全般改善度が「中等度改善以上」73.9%(85/115例)、副作用の発現頻度は3.5%(4/115例)で、内訳は頭重感、耳鳴、血清尿酸値上昇、血清カリウム低下が各1例でした。

なお、この試験は6日間という短期間の評価です。長期に使用した場合の有効性や安全性は、この結果からは読み取れません。

トラセミドの副作用

トラセミドの副作用の多くは、利尿作用そのものに関係したものです。尿量の増加、脱水、血圧の低下、電解質の変化などがこれにあたります。用量の調節と定期的な検査によって管理していくのが基本です。

比較的みられる副作用・検査値の変化

電子添文で0.1〜5%の頻度とされているのは、次のようなものです。

  • 口渇、頻尿
  • 頭痛、めまい、倦怠感
  • 血清尿酸値の上昇
  • AST・ALTの上昇、BUN・クレアチニンの上昇
  • 血液障害、電解質失調

0.1%未満の頻度では、発疹、そう痒、食欲不振、下痢、悪心・嘔吐、胸やけ、脂質異常、高血糖、しびれ、聴覚障害、動悸、痛風様発作、関節痛、筋けいれん、CK・LDHの上昇などが記載されています。頻度不明のものとして女性化乳房もあります。

重大な副作用:カリウムは下がることも上がることもある

電子添文では、低カリウム血症と高カリウム血症の両方が重大な副作用として記載されています(いずれも頻度不明)。

カリウム値が大きく変動したときには、全身倦怠感、脱力、筋力低下、動悸などが現れることがあります。抗アルドステロン作用が報告されているからといって低カリウム血症が起こらないわけではないため、どちらの方向への変化も確認の対象になります。

重大な副作用:肝機能障害・黄疸

肝機能障害が0.03%、黄疸が頻度不明として記載されています。AST、ALT、ALPなどの上昇をともなうことがあります。

重大な副作用:血小板減少

頻度不明ですが、血小板減少も重大な副作用として記載されています。あざができやすい、歯ぐきから出血しやすいなどの変化があれば医師に相談してください。

電解質異常全般

重大な副作用の欄とは別に、利尿作用によって低ナトリウム血症、低カリウム血症、低クロール性アルカローシスなどが起こる可能性があります。米国の製品情報では、さらに低マグネシウム血症、低カルシウム血症も挙げられています。

電子添文では、連用する場合には電解質を定期的に検査することとされています。長く続ける薬だからこそ、定期的な血液検査が治療の一部になります。

脱水・低血圧・腎機能の悪化

利尿が強く出た場合には、循環血液量が減って脱水や血圧低下が起こり、めまいや立ちくらみにつながることがあります。米国の製品情報では、過剰な利尿により脱水、循環血液量の減少、低血圧、腎機能の低下が生じうるとされ、塩分が不足している人や、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に作用する薬(ACE阻害薬、ARBなど)を併用している人では起こりやすいとされています。

こうした変化を避けるために、電子添文では少量から開始して徐々に増量すること、体液の状態と腎機能を定期的に確認することが示されています。立ちくらみが続く、尿量が急に減ったといった変化があれば、医師に伝えてください。

聴覚への影響

ループ利尿薬には、聴覚への影響が知られています。日本の電子添文には聴覚障害が副作用として記載されており、国内試験でも耳鳴が報告されています。

米国の製品情報でも、トラセミドを含むループ利尿薬で耳鳴や難聴が報告されているとされ、通常より高い用量、重度の腎機能障害、低蛋白血症ではリスクが高まる可能性があるとされています。多くは可逆的とされていますが、耳鳴りや聞こえにくさを感じたら医師に伝えてください。

トラセミドの使用上の注意

1) 使用できない人(禁忌)

電子添文では、次に該当する人にはトラセミドを使用できないとされています。

  • 無尿の患者:尿をつくれない状態では効果が期待できません
  • 肝性昏睡の患者:低カリウム血症による代謝性アルカローシスが肝性昏睡を悪化させるおそれがあります
  • 体液中のナトリウムまたはカリウムが明らかに減少している患者:電解質異常をさらに悪化させるおそれがあります
  • 男性の夜間多尿による夜間頻尿に対してデスモプレシン酢酸塩を使用中の患者:両剤とも低ナトリウム血症を起こすおそれがあります
  • 本剤の成分、またはスルホンアミド誘導体に対して過敏症の既往歴がある患者

トラセミドはスルホンアミド系の構造をもつため、サルファ剤など関連する薬でアレルギーが出たことがある場合は、受診時に伝えてください。

2) 腎機能障害がある場合

トラセミドは腎性浮腫にも使われる薬ですが、腎機能障害のある患者では慎重な管理が必要とされています。腎機能がさらに低下する可能性があること、排泄が遅れて血中濃度が上がる可能性があることが理由です。

実際、日本の薬物動態データでは、腎疾患患者で24時間後までに尿中へ排泄される未変化体の割合は約15%と、健康成人より明らかに低下していました。

3) 痛風・尿酸値への影響

トラセミドでは血清尿酸値が上昇することがあり、痛風発作を起こす可能性があります。本人または家族に痛風がある人では注意することが電子添文に記載されています。

また、痛風の治療に使われるプロベネシドなどの尿酸排泄促進薬について、その作用を弱める可能性があるとされています。

4) 糖尿病・血糖値への影響

トラセミドでは高血糖が起こることがあり、糖尿病を悪化させる可能性があります。電子添文には糖尿病患者への注意と、糖尿病用薬の作用を著しく減弱させる可能性が記載されています。米国の製品情報でも、血糖値を定期的に確認するよう推奨されています。

5) NSAIDs(解熱鎮痛薬)との併用

イブプロフェン、ロキソプロフェン、インドメタシンなどのNSAIDsは、トラセミドの利尿作用・ナトリウム排泄作用を弱める可能性があります。

また米国の製品情報では、NSAIDsとの併用が腎機能の低下と関連づけられており、使用前に医師に相談するよう示されています。高齢者、脱水状態の人、腎機能が低下している人、ACE阻害薬やARBを併用している人ではとくに確認が必要です。市販の解熱鎮痛薬にも該当するものがあるため、使う前に医師・薬剤師に相談してください。

6) ジギタリス製剤(ジゴキシンなど)との併用

トラセミドによって低カリウム血症になると、ジギタリス製剤の心毒性が強まり、不整脈が起こりやすくなる可能性があります。電子添文では、併用時に血清カリウム値をモニターすることとされています。

7) リチウムとの併用

トラセミドはリチウムの腎からの排泄を減らし、血中リチウム濃度を上げる可能性があります。リチウム中毒を起こすおそれがあるため、併用する場合は血中濃度の確認が重要です。

8) アミノグリコシド系抗菌薬との併用

ゲンタマイシン、アミカシンなどとの併用では、腎障害や第8脳神経障害(聴覚障害)が増強する可能性があり、電子添文では可能であれば併用を避けることが望ましいとされています。

9) ステロイド・甘草製剤との併用

副腎皮質ステロイド、ACTH、グリチルリチン製剤などもカリウムの排泄を促すため、トラセミドと併用すると低カリウム血症が起こりやすくなる可能性があります。甘草は漢方薬にも広く含まれているため、服用中の漢方薬があれば伝えてください。

10) めまい・ふらつきと運転

血圧低下によるめまいが起こることがあるため、電子添文では自動車の運転や高所での作業に注意することとされています。

11) 妊娠中・授乳中の場合

妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとされています。ラットの試験では、一過性の骨格変化や胎児の化骨遅延などが報告されています。

授乳については、動物実験で乳汁中への移行が認められているため、授乳しないことが望ましいとされています。

12) 小児・高齢者の場合

小児については、国内で臨床試験は実施されていません。とくに乳児では電解質のバランスが崩れやすいため注意が必要です。

高齢者では、脱水、低血圧、立ちくらみや失神、低ナトリウム血症、低カリウム血症が起こりやすく、心疾患のある人では血液の濃縮にともなう血栓塞栓症にも注意が必要とされています。1日4mgなど少量から開始し、慎重に観察することが推奨されています。

フロセミドとの違い

トラセミドとフロセミドは、どちらもループ利尿薬で、心不全などにともなう体液のうっ滞に使われます。

項目トラセミドフロセミド
分類ループ利尿薬ループ利尿薬
主な作用部位ヘンレ係蹄上行脚ヘンレ係蹄上行脚
作用のしくみヘンレ係蹄上行脚での電解質の再吸収を抑える同じしくみ
国内の通常用量1日1回4〜8mg(ルプラック錠)製剤・病態により異なる
経口での吸収比較的安定しているとされる吸収率の個人差が比較的大きいとされる
抗アルドステロン作用動物実験で受容体結合の阻害が報告されている報告されていない
心不全での生命予後フロセミドより優れるとは証明されていない同左

トラセミドはフロセミドに比べ、経口でのバイオアベイラビリティが安定し、半減期が長いという薬物動態上の利点があるとされてきました。そのため「心不全の予後も良いのではないか」と期待された時期があります。

しかし、心不全で入院した患者2,859人を対象にトラセミドとフロセミドを直接比較した大規模な無作為化試験TRANSFORM-HFでは、中央値17.4か月の追跡で、全死亡はトラセミド群26.1%(373/1,431例)、フロセミド群26.2%(374/1,428例)、ハザード比1.02(95%信頼区間0.89〜1.18)となり、有意差は認められませんでした。

したがって現時点では、「トラセミドはフロセミドより生命予後を改善する薬」と断定する根拠はありません。どちらを使うかは、個々の患者の状態をふまえて医師が判断します。

国内と海外での承認・用法の違い

トラセミドは、日本と米国で承認されている効能も用量も大きく異なります。

項目日本:ルプラック錠米国:torsemide錠(速放錠)
承認されている効能心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫心不全・腎疾患・肝疾患に伴う浮腫、および高血圧症
心不全に伴う浮腫1日1回4〜8mg(効能は「心性浮腫」)1日1回10mgまたは20mgから開始
腎疾患に伴う浮腫同上(効能は「腎性浮腫」)1日1回20mgから開始
肝疾患に伴う浮腫同上(効能は「肝性浮腫」)1日1回5mgまたは10mgから開始。アルドステロン拮抗薬またはカリウム保持性利尿薬と併用
高血圧症承認適応ではない1日1回5mgから開始。4〜6週で不十分なら10mgへ

日本では病態にかかわらず1日1回4〜8mgを基本に調整しますが、米国では病態ごとに開始用量が決められており、いずれも日本より高い設定です。また米国では高血圧症にも承認されていますが、日本のルプラックの承認適応に高血圧症は含まれていません。

これは「海外では高血圧に使えるのだから日本でも使ってよい」という意味ではありません。国内で使う場合は、日本の電子添文に基づいて4〜8mgを基本に調整します。

トラセミドを含む医薬品・関連製品の入手方法

日本・海外での承認状況

日本では、トラセミドを含む製剤は処方箋医薬品として承認されており、医師の診断に基づいて処方されます。先発品はルプラック錠4mg/8mgで、同じ成分の後発医薬品も複数販売されています。

海外でも torsemide として広く使われており、各国の製薬企業からジェネリック医薬品が販売されています。ただし前述のとおり、承認されている効能も用量の設定も国によって異なります。

日本国内で未承認の海外製品を、個人が自分で使用する目的で取り寄せることは、個人輸入として一定の範囲で認められています。ただし、国内の医薬品副作用被害救済制度の対象外となること、本来は体重・尿量・血圧・腎機能・電解質を確認しながら使う薬であることを理解したうえで、自己責任での利用となります。

利尿薬は、効果の現れ方が体調や腎機能によって変わるため、量の調節は医師が行います。むくみの程度に応じて自分で増減すると、脱水や電解質の変化につながることがあります。また海外製品は規格(1錠あたりの含有量)が日本の承認用量と対応していないことがあるため、量の確認も必要です。

当サイトで取り扱いの製品

商品名有効成分含有量製造元生産国商品詳細ページ
Tor 10 箱 正面
トール
5mg / 10mg / 20mgインタス・ファーマ(Intas Pharmaceuticals)インド商品詳細ページへ

まとめ

トルセミド(日本の一般名はトラセミド)は、腎臓のヘンレ係蹄上行脚で電解質の再吸収を抑えるループ利尿薬です。日本ではルプラック錠が、心性浮腫・腎性浮腫・肝性浮腫に承認されており、通常は1日1回4〜8mgを午前中に服用します。

副作用の多くは利尿作用に関係したもので、脱水、血圧低下、電解質の変化などがあります。カリウムは下がることも上がることもあり、どちらも重大な副作用として記載されています。連用する場合は電解質を定期的に検査しながら使っていきます。

無尿、肝性昏睡、ナトリウム・カリウムが明らかに減少している状態では使用できず、デスモプレシンとは併用禁忌です。スルホンアミド誘導体に過敏症のある人も対象外です。NSAIDs、ジギタリス製剤、リチウム、アミノグリコシド系抗菌薬など、併用時に確認が必要な薬もあります。

日本と米国では承認されている効能も用量も異なります。服用中の薬や持病を医師に伝え、量の調節は医師の指示に従ってください。

参照

医療用医薬品:ルプラック錠4mg/8mg 電子添文(2025年12月改訂・第2版)|PMDA

医療用医薬品:トラセミド|KEGG

トラセミド錠4mg「KO」の基本情報|日経メディカル 処方薬事典

Torsemide tablets US prescribing information|Drugs.com(FDAラベル全文)

TRANSFORM-HF:Torsemide vs Furosemide and Long-term Outcomes Among Patients Hospitalized for Heart Failure(JAMA 2023)

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